Into A Space of Love

「Warehouse（ウェアハウス）」という名のクラブで1人のDJがある音楽ジャンルを生み出しました。DJの名はフランキー・ナックルズ。クラブの音楽ディレクターを務めていた彼の音楽が 、“ハウス”ミュージックの始まりです。

今から30年前、ハウスミュージックの一大ムーブメントが英国に到達します。ロンドンやマンチェスターのクラブ、ロンドン郊外の環状道路沿いのがらんとしたオープンスペースで、先駆的なDJやファンたちがシカゴ発の音楽を自分なりに表現するようになりました。この影響は今なお続いています。

グッチとFriezeとが新たにスタートさせた4部作のフィルムプロジェクト『The Second Summer of Love』は、エレクトロニックミュージックやレイヴカルチャーの興隆を世界中で辿っていくものになります。アーティストであり撮影監督でもあるアーサー・ジャファ、ターナー賞に輝くアーティストのジェレミー・デラーや新進気鋭のビデオアーティスト、ジョシュ・ブラーバーグをはじめとする明確なヴィジョンを持ったフィルムメーカーたちが手がけるユニークなドキュメンタリーフィルムは、今という時代を彩ってきたエレクトロニックミュージックの主要なシーンにスポットライトを当てます。デトロイトやベルリンのテクノから、ロンドンのアシッドハウス、イタリアのイタロディスコまで、フィルムはこうした革命的な若者文化のルーツやその世界的ムーブメントを探究していきます。そして、当時のクラバーやDJたちのムードと実体験を捉えた4作のドキュメンタリーフィルムには、それぞれの前章としてグッチのコレクションをフィーチャーした60秒のプレリュードフィルムが制作されます。 

その第1作目となるのが、数々の賞に輝くフィルムメーカーでありアーティストのウー・ツァンが手がけた『Into a Space of Love』。ニューヨークのアンダーグラウンドカルチャーをルーツとするハウスミュージックのレガシーをたどる、マジカルでリアルなドキュメンタリーです。この作品に合わせて、アダム・ツォカ・ケラーとエヴリン・ベンチコヴァのディレクションにより、1980年代のニューヨークのクラブカルチャーから垣間見ることのできるナイトアウトの雰囲気を捉えたプレリュードフィルムが制作されました。 

米国でアシッドハウスの勢いが増していくのは1984年頃。シカゴで始まった水中をうねるようなベース、ユニークでアグレッシブなシンセサウンドが、やがてこのジャンルを象徴するものとなっていきます。アシッドハウスは1988年までに爆発的に広まり、それに伴い若者の新たなムーブメントが巻き起こります。過激な新しいジェンダーレスなファッション、最先端の音楽、そして新しいドラッグの流行が、文化を永遠に変容させてしまい、さらには社会的秩序さえもを脅かすようになっていきます。

英国では、アシッドハウスが都会のクラブだけでなく、過激なアートとは無縁だった地域でも新たな文化として広がりを見せます。毎夜パーティが繰り広げられていたイビサ島からDJたちや音楽やお楽しみを持ち帰ったこともあり、ダンスミュージック、無許可のレイヴ、ドラッグが急速に広まりました。1980年代が終わりを告げる頃になると、アシッドハウスが自由に音楽に身をまかせるエクスタティックダンスと結びつき、若者たちはまさに自分たちの「（セカンド）・サマー・オブ・ラブ」を謳歌するのです。しかし、その凄まじいパワーは体制側から危険視され、アシッドハウスが音楽文化における圧倒的な地位を確立していたにも関わらず、政府や警察は違法なレイヴを厳しく取り締まりました。

フィルムシリーズ『The Second Summer of Love』は、激しいハウスミュージックやレイヴムーブメントのルーツと、この社会現象が今の時代の文化に与えた影響を探っていきます。

フィルムは、時代が内包するエネルギーやスピリットを捉えながら、その危うさや偶発性、一般の人々のパワー、音楽的・社会的に新天地を切り開こうとする純粋な情熱といったものを映し出していきます。そのストーリーはいずれも2018年に生きる我々に向けて直接語りかけてきます。技術が進歩を続け、社会的な格差や不平等が広がり、マイノリティの声を届ける闘いが繰り広げられる中で、我々は過ぎ去った年月との関係を見出すのです。

Into A Space of Love
A film by Wu Tsang
Produced by Tosh Basco
Cinematography Antonio Cisneros
Original score by Asma Maroof
Executive producer Jacqueline Edenbrow