フローリアという名前は、オペラ「トスカ」の主人公に由来します。両親はオペラ歌手であり、イタリアの都市ぺスカーラからカナダに移住しました。彼女はこれまでに、デヴィッド・ボウイ、ザ・ホワイト・ストライプス、リアーナなどのミュージックビデオ制作を手がけたほか、長編映画『ランナウェイズ』の監督および脚本を担当しました。ここでは、ローマ近郊のチステルナ・ディ・ラティーナにあるニンファ庭園で撮影されたグッチの幻想的なキャンペーン フィルムとそのインスピレーションの源について語ります
ニンファ庭園という舞台は、このフィルムにどのような影響をもたらしていますか?
この庭園が持つ歴史と美しさは、すべて映像に反映されています。園内を散策すると、楽園という名にふさわしい光景に目を奪われます。蝶、トンボ、ハチがあちこちに舞うこの場所は、世界で最もロマンチックな庭園と呼ばれています。このフィルムの撮影に、これ以上ふさわしい場所があるでしょうか?
このキャンペーンに対し、どのような観点、どのような気持ちでアプローチしましたか?他の仕事と違う点は?
どんな仕事でも、絵画を描くようなつもりで臨みます。私にとって、映像制作はひとつの世界を創造することです。たとえそれが私たちが知っている世界であったとしても、常に違った視点を発見するように努めています。この作品では、主人公のポリーナの視点を通してこの楽園を見ることができます。そして、時が止まったような瞬間に彼女の内面世界を垣間見て、知識に対する渇望を抱いていることがわかるでしょう。彼女が見る夢の一片で物語が始まり、自ら決断を下すシーンで物語が終わります。人生経験のチャンスを求める若い女性は、良くも悪くも、掟に背くささやかな行為によって大きな責任を負うことになるのです。自然光だけを利用して屋外で撮影されたため、そこにあるものを使い、自然に溶け込みながら作業を進める必要がありました。周囲を取り巻く光や動物たちは、それぞれが独自のルールを持っており、決してこちらの思い通りにはなりません。そのため極めて流動的なアプローチを選び、コントロールすることをやめ、自然の流れにまかせることにしました。
BGMにオペラを選んだのはなぜですか?
私の両親はオペラ歌手でした。私の名前は「トスカ」の主人公にちなんでいます。つまり、生まれた時からオペラの世界に浸っているわけです。オペラで扱われるストーリーは実生活よりも壮大です。このストーリーも、エデンの伝説を再解釈し、脚色を加えたものです。アレッサンドロ・ミケーレの現代的な感性を通して映し出された世界です。BGMにはドニゼッティのアリア「甘いささやき(Il Dolce Suono)」を選び、豊かな感情と別世界へといざなう魅力を付与しました。女性の声がまるで夢の中でさえずる鳥の歌のように響きわたり、別の時代に連れていってくれます。
このフィルムは旧約聖書に登場する物語をモチーフとしていますが、特に力を入れたのはどのような点ですか?
旧約聖書に出てくるこの話を基に、大人になるという概念を表現したいと思いました。完全に独立した立場で、生きるという意味を本当に理解し、自分らしい生き方を実践する時、人は大人になるのだと私は考えます。そのため、この庭園の住人たちの純粋さを表現するために、自然主義的な手法を考慮する必要がありました。個性を大切にしながら、責任を持つということ。その岐路に立つ場所がここなのです。少女がリンゴを齧るシーンをラストに選んだのはそのためです。リンゴを齧った後に何が起こるかは重要ではありません。彼女がその行動を選択したこと、それを心から望んだことに意味があるのです。
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