クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレは、この数か月間にローマの彼の自宅でしたためた個人的な日記をグッチ コミュニティにシェアしました。この日記の中で、グッチのコレクションの新たな表現方法についても語っています。
ローマ - 2020年4月7日
同じ道を辿らないことについて
不意にこの大きな危機に見舞われた今、私たちは以前と同じ道を辿らないようにしなければなりません。なぜなら未来への最大のリスクは、決して同じ過ちを繰り返さないという責任を放棄することだから。歴史はあらゆる危機を経てきましたが、私たちはそこから何も学んでいない。経済と社会の崩壊は、いつも同じ道を辿り繰り返している。心を入れ替えることができなかった傷とともに。自分自身と社会を変えることができなかった嘆きとともに。
この危機は、私たちすべてにとって逃れることのできない試練です。試練とは、悲しみ、努力、危険を伴い、同時に評価が下されるもの。悲しみは、自分たちが行ってきたことを批判する目を与えてくれます。そこに見えるのは、負債、誤解、偽り、間違いのリスト。過失と無謀さ。目を背けてきた思考の不在。
今回のことは私たちに重要な責任を与えてくれました。誰もが社会のあらゆるところで起きる変化の一翼を担い、それぞれの役割に応じて責任を果たすことができるのです。実際、私は常に仕事に変化を求める質なので、これまでは創造的な変化を当然のように楽しんできました。しかし今回の危機が背中を強く押したのです。今すぐに変わるべきだと、これ以上先延ばしにすることはできないと。
ローマ - 4月27日
選択の動機
私が面している変化には、私自身がファッションの世界に入ることになった同期の根源と再び結びつくことも含まれています。不純物を取り除き浄化し、ファッションとの絆を改めて本質的なものにすることが必要です。私は選択の本物の動機を求めているのです。私にこの道を選択させたありとあらゆる理由。時が経つにつれ、それらは異なる意味や強さを持つことがわかってきましたが、必然的に同じ欲求を持っていました。それは、語ることの可能性。
この可能性は、遥か昔から変わらない力強いもので、常に私に新たな表現の道をひらく機会をもたらし、私の夢を奮い立たせる言葉にならないものを育む空間を作り、不完全さへのノスタルジーをたたえ、さまざまに開花する美しさを称賛します。この可能性こそが、私にファッションへの尽きることのない愛を感じさせてくれるのです。
ローマ - 2020年5月2日
新たな創造の世界
今、私は完全に理解しています。この表現の可能性は、スピードという暴君のもとでは生きることができないことを。私たちの行動はあまりにも激しく、その進め方はあまりにも狡猾でした。そのことを認識した今、創造性を損なうリスクのある時間的制約から解放された、別の時間を持つことの必要性を感じています。それは待ち続けることができる時間、ゆったりと豊かに過ぎていく時間。それは、ひらめきが訪れる時間であり、夢のなかに、遊びのなかに、そして曖昧な予想のなかにいることができる時間。今という時代に、これまで以上に新しく力強い物語を構築するために必要な時間です。
だから、私はファッション業界が取り決めたタイムスケジュールから離れて、そして何よりも、もはや存在意義のない過剰なパフォーマンスから離れて、新しい道を進むことを決意しました。そうすることが大胆かつ根本的に新たな創造の世界を生み出すために必要なのです。新しい世界では、過剰さを減らすことでその本質が引き出され、感覚を増幅することでその生命力を輝かせます。
ローマ - 2020年5月3日
残響を生み出す神聖な力
私は季節ごとのコレクションやショーといった慣例化された儀式をやめることで、私自身の自然なリズムを取り戻します。年に2回だけ、グッチの物語の新たな章を発表します。その物語は、あらゆるルールやジャンルを超え、変則的で楽しく、完全に自由、そして新しい空間や言語、新しいコミュニケーションのプラットフォームで語られていくでしょう。
そのうえで、クルーズ、プレフォール、春夏、秋冬といったコレクションを支配していた言葉を、前時代の不用品として捨てていきます。これらは持ち主不在の意味のない名札のように、人々の生活から次第に離れ実用性のなくなった容器のように、もはや生気がなく魅力のないものになってしまったのです。
私は異なる世界の言語によっても、ファッションの未来を語ることができると思うのです。例えば古代の言語に由来するクラシック音楽用語で、私たちの新しい出会いの場に、名前を授けてはどうでしょう。私のコレクションを、シンフォニー、ラプソディ、マドリガル、ノクターン、オーバーチュア、コンチェルト、メヌエットと名付けて。音楽には残響と絆を生み出す神聖な力があります。音楽は、儚くも尽きることのない美しさとつながりながら、あらゆる境界を超えていきます。
ローマ - 2020年5月5日
意思を持つコミュニティ
この静寂のなかで、生きている時のなかで、私の耳は友であり非凡なる人々の息づかいを感じています。時を再調整し人間的なペースを取り戻すことは、心から誇りに思える意思を共にするコミュニティに、思いやりを取り戻すことの約束でもあります。多様な未来。大切な人とのハグを取り戻す未来、そこでは私たちはより多くのことを理解しているでしょう。共同体としての生き方と深い呼吸を取り戻して。そしてその時、私たちは、夜には森が育つ音に耳を傾けることを思い出すでしょう。
ローマ - 2020年5月16日
失った苦しみのなかで
ファッションの仕事から離れている今、私のファッションへの愛はより強くなっています。私たち人間は、すべてにおいてそうなのです。何かを失った苦しみのなかで、狂おしいほどの愛を知るのです。
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